みヅゑ…

流転の好事家あたしかの公開備忘録

ズガ・コーサクとクリ・エイト 二人展

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 新長田にあるcity gallery 2320で9月12〜27日に開催されたズガ・コーサクとクリ・エイト 二人展を見てきました。2009年に結成された謎の二人組ユニットなズガ・コーサクとクリ・エイト*1の新作個展。二人はこれまで主に神戸市やその周辺で新作を発表するたびに関西のアートシーンでいろいろ話題になっており、個人的にその盛名は以前から聞き及んでいましたが、実作に接するのは初めてでして(爆)。


 さておき、そんな二人の作風は、街かどにある風景をダンボールなどの故紙や廃物を用いて展示空間内に1/1スケールでムリヤリ再現するというもの*2。実際、これまでの展覧会では裏道や工事現場、川原、果ては城(←さすがにこれは1/1とはいかなかったようですが)まで作っているとのことですが、今回は展示スペース内に1/1神戸市バスとバス停のある風景をオブジェ+インスタレーションという形で作っていました。下町によくある二階建ての民家を改装してギャラリースペースとしているcity gallery 2320のことですから、もちろんスペース内に1/1市バスがまるまる再現できるはずはなく、ダンボールでオブジェ化されているのはバスの後ろ半分であとは壁に描かれているわけですが、それでもオブジェ部は座席やタイヤなどもダンボールを駆使して実物大で再現されている。そして二階のスペースにはバスとバス停の屋根がはみ出すように作られており、省略してもよさそうなところまでもキッチリと作りこんでいたわけで、「1/1で作ること」が意外と徹底されていたと言えるでしょう。ほかにも壁面に描かれた風景が透視図法にかなりの程度従って描かれているなど──実際、作品に接していると、ギャラリーの人に二人はここからの視点で風景を描いたんですとインスタレーション内の一角を案内されたのでした──、いくらでも避けられるところを避けずに作った形跡が見出されるのでした。展示空間内に廃物を使って1/1スケールで風景をムリヤリ再現するというのは、どうしても勢いと出オチ任せのおもしろアート感が漂ってくるものですが(後日、別のギャラリスト氏から聞いたのですが、二人とも関西におけるこの手の出オチ系アートの大物的存在だった堀尾貞治(1939〜2018)の弟子だったそうだから、なおさらである)、二人の作品はおもしろアートにしてもクオリティというか説得力のレベルが違っており、見入ってしまうことしきり。


 しかしその一方で、より仔細に見てみると、単なる出オチ任せのおもしろアートで済まされない要素が見出されるのもまた、事実と言えば事実。ことにそれはこのインスタレーションに横溢している空間感覚に顕著である。上述したように、今回制作された1/1神戸市バスとバス停のある風景はオブジェも壁画も透視図法に従って配置されるように作られ描かれておりまして、その意味では三次元に拡張された絵画と言ってもあながち的外れではなさげなのですが、実際には展示空間との兼ね合いでかかる視覚的秩序に厳密に従っていないところもまだら状に存在している。もそのこと自体をこのインスタレーションについて考察し評価する上で瑕疵とはせずに、視覚的秩序の(部分的な)破綻も作品に織り込まれていること自体をポジティヴに読み直すことが、二人の仕事を読み解く際に、二人の仕事の創造性を解放する際に求められているのではないだろうか。


 ところで先日twitterのタイムラインをだらだら見てましたら、建築or建築史の研究者とおぼしき人のツイートが目に入りまして、それは桂離宮の一角にある東屋(松琴亭)と庭について呟かれていたのですが……

 

 
 ──松琴亭の特徴的なフォルムを「ノンスケール、ノンパースペクティブ」の所産であり「その場にある視覚情報以外の物質がもつ記号性や引用される物語・イメージなど、もろもろがすべて等価にミックスされていたはず」と読み解くここでの視点は、そのままズガ・コーサクとクリ・エイトの作品に対しても敷衍できるでしょう。二人の作品の場合、等価にミックスされるのは物語やイメージというよりも、街角の風景という現実性と遠近法的な「見え」にかかわる記号描写と、そして(これが最も重要なのですが)展示空間が本来的に持つ空間的な制約という、より唯物的で世知辛い要素なのですが、いずれにしましても、結果としてノンスケールでノンパースペクティブにせざるを得ない部分が、遠近法的描写の中に唐突に割り込んでくることの面白み──個人的にはとりわけ階段裏の面や室内にあるエアコン周りの処理の仕方のあまりの強引さに吹いてしまいました──の向こう側に、桂離宮に典型的に見られるような遠近法、より正確には西洋的な一点透視図法とは異なる世界認識の方法がうっすらとではあるものの垣間見えるわけで、そこに単なるおもしろアートにとどまらないクリティカルなものがあったように、個人的には思うことしきりなのでした。


 (追記)その後、この1/1神戸市バスは10月初頭に某幼稚園に移築されて再展示されたとのこと(一般には非公開)

 

*1:仄聞するところでは二人とも女性で、ユニット結成以前からソロ活動歴があるらしい。後日、二人のソロ活動時の作品画像を見たけど、全く異なる作風だった。

*2:一例として、2018年にCAPスタジオY3で開催された「仮の風景 あっパートII」展の記録サイトをあげておくhttps://www.cap-kobe.com/kobe_studio_y3/?p=2825