みヅゑ…

流転の好事家あたしかの公開備忘録

「館勝生1997-2006」展

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 Yoshimi Artsで5月22日〜6月9日に開催された「館勝生1997-2006」展。1990年代から注目を集め、将来を嘱望されるも2009年に逝去した画家館勝生(1964〜2009)の没後10周年に合わせた回顧展といった趣の展覧会。

 
 今回はタイトルからも分かるように、1997年から2006年にかけて描かれた絵画作品が大小数点出展されています。1980年代末から絵画を描き始めた館のそう長くないキャリアの中でも、(強引に区分するなら)中〜後期に当たる時期と言うべきでしょうか。この時期の館は、昆虫の翅のようなモティーフが大きく描かれた具象でも抽象でもありうるような絵画から、油絵具の物質性が強調されつつ──いくつかの作品では絵の具の塊が圧倒的な存在感を見せていた──塗り残しがあってもお構いなしに即興的に描かれた荒々しい絵画へと作風が大きく変わっていく時期であった。で、ここから早すぎる最晩年における、他に類例のない、今なお豊かな謎をたたえた作風へと超展開していくことになるわけですが、その一歩手前において見ることを観賞者側に求めていたと言えるでしょう。


 実際、きわめて即興的に描かれたように見えるこれらの作品は、しかしより仔細に見てみると鉛筆の下書きがそのまま残っており、それはこれらの作品が実は周到に計画された──少なくとも即興の部分と計画された部分とが混在している──、見かけ以上に複雑なプロセスを経ていることを観賞者側に予感させるものとなっていました。ここから館において絵画が本質的に複数のプロセスと物質性が交わる場でもあることがおぼろげながら見えてくるわけですが、しかしなぜこの時期において館の作品に絵具の(何らのレファレンスもモティーフも持たない)物質性がいささか唐突に浮上してくることになったのか──そのようなことを考えさせられましたし、80年台前半における「関西ニューウェーブ」以後に作家活動を開始したということと合わせて、より解像度を上げて考察していくことの必要性と重要性を感じさせられることしきりなのでした。